数膳は誤差あるも盛る朝ごはん/ゼウス

鉄工所、もうなにを作っているのか忘れてしまって、かなり可愛い/広瀬ボルオ『稀風社の貢献』より。悲しい楽しい寂しいみたいな言葉は使わないほうがいいらしいけど、この可愛いは効いてる気がする。工場萌えというよりも、進化しすぎた生命を見る神の視点という感じ。

巣とナタデココら震える鞦韆で/タナトス

情田:でしょう。この、浅いところでもがいてる必死さがねえ。
石井:でも本気なんですよ。
情田:それは僕もわかるんですよ。でもそれに賞をっていうのは、ちょっと危なくないかなっていう。
石井:ほんと危ないんですよ。
『稀風社の貢献』より。自分が三位で推してるのに「危ないんですよ」って認めちゃうから、エッてなる。面白いなあ。危ないほうへ行くのが好きなのかなあ。石井さんは二位に推す作品のときも「その物言いで批判されると、確かにそうだねとしか言えない」って相手の意見を受け入れちゃうんだな。屁理屈こねて言い負かそうとか思わない、いい人なのにちがいない。

撮る家電カメラときどき虎めかん/デカルト

また来やがった、いい加減にしてほしいな、そりゃあ最初は斬新だったんだろうけどとっくに形骸化してんだよ、いいか、オレは追い詰められた犯人の心象の具現化なんだ、それを表面だけ真似るから笑われんだぞ、いやしかしそうは言っても、問題が解決すると青空だとか失恋したら雨だとかはどうして笑われねえんだろうな、不思議とも感じられんくらい麻痺してんのか、もはや様式美なのか、あ、回想シーン終わりそう、ちゃんとしよ。崖は背筋を伸ばす。

さっきから2時間ドラマの容疑者がぼくの名前で責められている/山階基

盗る馬鹿は余計敵来て行けよ墓/バルト

借金を返すために盗んだ、盗んだ金は温泉旅行に使った、ってとことん計画性のない犯人である。計画的な犯罪のほうが悪質だとは思うが刑が重くなるのは疑問だ。計画性が高いほど減刑されるようにすれば思慮深い人が増えて犯罪が減るんではあるまいか。幸せを明日につなぐ火の始末、って標語は聖火ランナーみたいにつないできた幸せの火を絶やしてしまえという意味かもしれない。映画で見たセシルのように嘘は言いたくない、って浅香唯の歌が好きなのに映画のセシルが嘘を言ったのか言ってないのか知らない。喧嘩するほど仲がいい、ってのも喧嘩できるのは仲がいい証拠だという意味か喧嘩すればするほど仲が良くなるという意味か知らないままだ。何ひとつきちんと理解できてないし恋人もできないし俺なんか墓に入ったほうがいいと思う。

恋人はいてもいなくてもいいけれどあなたはここにいたほうがいい/is

する減塩やめた飲み会神のためやん/エンゲルス

やばい、味なくなってきた。捨てられる。ペッ、て道に吐き捨てられる。早う忘れたいと思いつつ何べんも噛みしめてまう記憶みたいに、どないしたらなれるんやろ。捨てられたら踏んづけられて溜め息つかれてどっかの角になすりつけられる。嫌や。ずりずりずりずり痛いて聞いたで。痛いん嫌や。お、ポケットから包み紙出しおった。持っとったんか。ラッキー。アスファルトと一体化せんで済むわ。せやけど捨てられんのは変われへん。まあしゃあないわな。何にでも終わりは来るわ。人間かてそうやねんで。人間かて神様のガムやねんからな。なんぼ健康に気ぃつけたかて神様が飽きたら、ペッ、て捨てられあっ。

ガムを噛む私にガムの立場からできるのは味が薄れてゆくこと/我妻俊樹

はっ馬鹿な様子かもモカ吸う夜中/バッハ

忘れたんか。香り高いて目立つとこに書いたあるくせに原材料欄に香料てあるコーヒー見てアホちゃうかていっしょに笑うたやないか。せやけどまあ香りが高いほうがおいしいんは事実やさかい、砂糖やら牛乳やらとおんなじか言うて、できたら入れてほしゅうないけど、まあまあ許したることにしたけども。え、忘れてへんて、ほんだらオマエ、なんでやねん、許せへんわ。カフェイン抜きて。なんやねんそれ、味のためやないやろ。そうまでして飲まれたいんかいな、え。ワタクシにカフェインがございませんのは生まれつきですけどみたいな澄ました顔しやがって。カフェインあってこそのワテらちゃうんか、お。ほんまに。友達や思うてたワテがアホやったわ。情けのうて情けのうて、あ、あかん、沸騰しすぎて煮詰まってもた。

ふるさとの訛りなくせし友といてモカ珈琲はかくまでにがし/寺山修司